不謹慎と知ってて言うが、
ちょうど今、原子力が旬の季節だ。
せっかく原子力を勉強したんだから、一本書かせてもらう。
※注意※ それなりに理系向けです。高一ぐらいかな?
1.原子力て何ぞや?A)「原子力」ってどういう意味? 「原子力」というのは、もともとは「Atomic Power」の訳語である。
しかし、そのメカニズムはこの英語からは程遠い。
よって、最近では「
Nuclear Power」という表記が一般的だ。
例)原子力発電所
昔:APP(Atomic Power Plant)
今:NPP(Nuclear Power Plant)
もっと厳密に言うなれば、「Nuclear Energy」とでも言うべきだろう。
(物理においてPowerは仕事率をさし、Forceは力量をさすため)
日本語に直すと、「
原子核エネルギー」だ。
B)どういうメカニズムなの? 単純化すれば、「
核分裂の際に放出されるエネルギーを熱量として取り出す」、といえる。
細かい話は後日にまわすが、まずは"化学反応"という視点からみてみよう。
カイロの反応は知っているだろうか?鉄と酸素と水。この3成分が反応して水酸化第二鉄を作るものだ。反応は以下の通り。
4 Fe + 6 H2O + 3 O2 → 4 Fe(OH)3(水は多孔質であるバーミキュライトに含まれている。酸化還元反応を助長するため、食塩水を用いる。)
何が言いたいか、というと「反応熱って馬鹿にならないじゃん?」という話だ。
高校でなされる説明においては、「高い結合エネルギーを持つものが、結合エネルギーの低い物質に変わる際に、過剰分のエネルギーが放出される」とかいわれる。
で、カイロでは所詮、約800KJ/molぐらいで、ほんのり暖かい程度だ。
しかし、核分裂はダンチだ。ウランの例で言うと、だいたい200MeVぐらい。
……と、言われてもピンと来ないだろうが、
練炭が燃える反応の約1千万倍(質量あたり)の熱量だ。
何が違うワケ、という話はまた今度。
核分裂の反応熱を利用している、という理解でいいはずだ。
2.核分裂とは何か 端的に表現すると、「
原子核が分裂する反応」だ。そのまんまである。
まぁ、説明に入る前に、これを見てくれ。

これは核分裂の概略図だ。
ここでは、特にウラン235を取り上げている。ずばり、現在の原子炉で使われている燃料だ。
1.中性子がウランに衝突する。
2.ウランが約85%の確率で核分裂を起こす。
3.新しい原子が2つできる。たったこれだけだが、注意すべき点もある。
一、高速中性子よりも熱中性子の方が反応率が高い。
一、生成する原子は確立で変動するが、だいたいは大小2つに分かれる。
一、高速中性子が飛び出すが、その数は一定でない。(平均して約2.4個)
「高速……ナニ?」という貴方、今は「中性子にも個性がある」と思ってください。
さて、この図を見てお気づきの方も多いでしょうが、生成物に中性子が含まれていますね。
ここがミソです。以下の図を見てください。

このように、核分裂によって飛び出した中性子をまた別のウランに衝突させると、再び核分裂が発生します。
そして、その飛び出した中性子をまた別のウランに、という風に繰り返すことができれば、放っておいても反応が進行しますね。
これを「
核分裂連鎖反応」といいます。
このための装置が「原子炉」なわけです。
そして、もう一つ重要な事は、さっき申し上げたとおり、核分裂反応は莫大なエネルギーを放出します。
つまり、何もしないでも、
東京一帯を賄えるだけのエネルギーをずーっと供給し続けてくれるのです。
何てステキなんでしょうか!!
これが原子力の根本的な原理なんです!
(でかい事言いましたが、日本の電力供給源の過半数を原発が占めています。)
(原発さまさま、って感じですね。でも、自分は原発賛成派ではありません。)
3.説明してないことがあるんじゃないか?おぉん? こっから先は理系色が強くなります。アレルギーの方はご注意ください。
補足的な説明なので、順番は割りとごっちゃです。ゴメンネ。
A)質量欠損 原子力といえばこのジジイ、アインシュタイン。
彼は「E=mc^2」を提唱したことで有名であるが……これ、何やねん、という話だ。
よく使われる説明が「消しゴムぐらいの質量があったら地球がヤバイ」ってやつ。
聞いたことない?筆者のまわりだけなのかも。
ここで相対性理論の話をする気はサラサラないし、筆者も説明できない。
よって、原子力に関係ある部分だけ話そう。
義務教育を受けたなら誰でも知ってる超有名原理の一つ「質量保存の法則」。
これ、実はまったくもってウソっぱち。成立していないのである。
具体的に言うと、原子レベルの話になる。
そこで、まずはこの図を見てもらいたい。

これぐらいは常識中の常識だ。
バーンについては原子炉の話になるまで待ってくれ。
ひとまず、確認しよう。
陽子の重さ ≒ 中性子の重さ ≒ 電子1840個分の重さ中学の教科書に載っている範疇だ。
ニアリーイコールだと計算に支障が出るため、厳密に記しておく。
電子の質量……約9.10938188*10^-31
陽子の質量……約1.67262158*10^-27
中性子の質量…約1.67492716*10^-27
単位はいずれもkgである。(国立天文台)
有名な話で、全ての元素の原子量は「
炭素12(12C)が12uとなるように、相対的に定められている。」
(uは原子質量単位Atomic Mass Unitである。これが1molあるとg換算になる。)
計算してみよう。質量数が12で、原子番号は6だから、電子と陽子と中性子が6個ずつ入っている計算になる。それが1molあると12gになるわけだ。
(9.1094*10^-31 + 1.6726*10^-27 + 1.6749*10^-27)*6 *6.02214*10^23
実際に計算してみると、12.09875967492696gになる。ぶっちゃけ、12.10gだ。
そう、ずれている。本来ならば12.10gのはずが、12.0gになる。
論理に合わない!! これは「国立天文台がやらかした」とか「実は数のトリック」とかではない。
現実問題として、こういう風になっているのである。
この軽くなった分をさして「
質量欠損(Mass Defect)」という。
アボアジエ「うちゅうのほうそくがみだれる」
ということはなくて、単純に「質量保存の法則は成立していない」ということだ。

何でこないな事になっとんねーん、意味わからへんわー。
ここで登場するのがアインシュタイン。
つまり、
「E=mc^2」の変換公式だ。厨二病諸君は歓喜にむせび泣いてよいタイミング。
物理学者が言うにはこういうことだ。
「結合エネルギーの分だけ質量が奪われた」「質量を結合エネルギーに転換した」
この説明ならば、
熱力学第一法則「閉じた系の中ならば、エネルギーの総和は保存される」を満たす。
通称『
エネルギー保存の法則』だ。かっこいいね。
さて、これを利用すれば、以下のような真似が可能になる。

質量欠損の総和を増大させることによってエネルギーを取り出すのである!!
……何も難しいことはない。
一般的な発熱反応はこういう仕組みになっているのである。
これが「反応熱」なんだ。
ウラを返せば、その差が大きければ、得られるエネルギーもデカくなる、ということだ。
さて、質量欠損を大きく変化させるための方法だが、これを世界中の研究者が躍起になって探し回った。そして
超ウラン元素の研究が始まる。
結論から言おう。
原子核の反応、すなわち「
核分裂」と「
核融合」がそれに該当するわけだ。
他の反応と比べて、その違いはダンチ。
随分前に述べたが、ウランの核分裂は練炭の1千万倍。
具体的には、
ウラン235核分裂 の質量欠損変化量……ウラン全体の1/1000
練炭燃焼反応 の質量欠損変化量……練炭全体の1/10000000000ダンチもダンチである。ダンチが団地かもしれない。
とにもかくにも、この事実が発覚して以降、ウラン235の核分裂は物理界、産業界、そして何より、軍事界を賑わせたのである。
B)Nuclear Fission カッコイイ英語使っても、ただの「核分裂」のことである。
随分昔に、「確率」の話をしたはずだ。そこを説明する。
どうにも核分裂というのは、確率の話と切っても切れないような縁がある。
具体的には、
・ぶつかる中性子のエネルギーによって核分裂する確立が異なる
・核分裂するにしても、生成物が確率で決まるため、ハッキリと決められない
など。
中性子の話は次項で扱うことにして、ここでは生成物の話をしよう。
気構えなくていい。先と比べるととっても簡単な話だ。
とりあえずこのグラフを見てくれ。これ、どう思う?

……すごく、汚いです……。
すまない、データに起こすのが面倒だったから写真で資料集を撮ってみたんだ。
許可?……これは教育のためだ、我慢してくれ。
さて話を戻そう。これは、
ウラン235を核分裂させた時の生成物の収量だ。
14MeV中性子では反応確率が著しく低いため、影響は微々たるものだ。
よって、「熱中性子」のグラフを見て欲しい。
山と谷があるのは分かるだろうが、これが対数グラフである点に注意だ。
谷の底と山の頂上では実に600倍の差が開いている。
つまり、実質的には、谷の部分はゼロに近似しうるレベルだ。
以上のことを踏まえると、自然、見えてくるものがある。
それが、えらいこと昔に述べた「大小2つに分かれる」というヤツだ。
数値で言えば、
90付近や130付近に集中している。
聞いたことはないだろうか?
ストロンチウム90、キセノン135、サマリウム149、セシウム137、ヨウ素131……こういった面子こそが「核分裂生成物」である。
特に、ストロンチウム90(90Sr)、セシウム137(137Cs)は「
放射性降下物(fallout)」としてしばしば話題に上がる物質だ。
また、ヨウ素131は体内被曝の原因になり、サマリウム149は圧倒的な毒性を持ち、キセノン135はチェルノブイリ原発事故に一役買った存在だ。
軒並み、危険極まりない物質どもが並んでいる。
ところで話は逸れるが、コバルト60(60Co)は放射性物質ではあるものの、核分裂生成物ではない。これについては原子炉の話の時に述べたい。
ともかく、上記のグラフにあるように、核分裂生成物はバラバラであり、当然、その対策は困難を極める。
口が裂けても「原発が安全」とは言えないわけである。
C)臨界(critical) 日本語にしても英語にしても美しい言葉だ。
その一方で危険な臭いも漂ってくる……。まさに漢の中の漢!!!
アホな話は措いておく。
それにつけても、「なんか臨界ってさ、ヤバイ状態なんじゃねーの?」という認識が一般的だろうと思う。かくいう筆者もそうであった。
これは、大きな誤解である。
言ってしまえば、「臨界」とは、「
普段、原子炉を運転している状態」と等しい。
図を用意していないので、文字で理解してもらいたい。
先ほど、「ウラン235の核分裂により、中性子は平均して2.4個飛び出す」と書いた。
だが、ちょっと待ってほしい。
次の段階でまた2.4個。さらに次で2.4個。また次で2.4個……。
こうなっていくと、
僅か8段階目で1100倍の出力になってしまう!!!!こうなれば原子炉は暴走、メルトダウンするのが先か、水蒸気爆発が先か、どちらにせよ、最終的には木っ端微塵に消し飛ぶことになるだろう。
かと言って、飛び出す中性子の数が1を下回ると、今度は逆に、出力がみるみるうちに低下する。最終的にはウンともスンとも言わなくなり、原子炉は停止。発電所なのに発電できない、なんて事態に陥る。
ということは、
飛び出す中性子の数がピッタリ1でなければならない。
こんな便利な反応は存在しない。ということで、飛び出した中性子2.4個のうち、1.4個をやっつけてやらねばならない。そのために「制御棒」がある。これについては原子炉の項で扱う。
ともかくも、核分裂連鎖反応が、常に1→1→1→1→……と、定格出力を維持している状態でなければ、原発は運転できない。
このように、
連鎖反応が一定速度を保っている状態を「臨界(critical)」というのだ。 連鎖が臨界に達していない状態を「臨界未満(subcritical)」といい、また、連鎖が臨界を越えている状態を「臨界超過(supercritical)」という。
原子炉を停止したいときは未満にすればいいし、原子炉をスタートさせたいときは超過にすればよい。
もちろん、超過のままにしておくと原子炉は大爆発だ。
それにしたって、ピッタリ1に合わせ続けることが可能なのだろうか?
実のところ、不可能だ。そういうわけで、運転員がいつも微調整を行っている。
あんな放射線まみれの場所、長く居たいわけはなかろうに。
もし運転員全員が突然ウンコに行きたくなったらどうする?
当然、何人かは漏らすしかない。目を離したすきに、原子炉は暴走しかねないからだ。
また、安易に出力を下げることもままならない。それは、「ポジティブスクラム」という原子炉に特徴的な現象なのだが……これは原子炉の項で扱う。
4.原子力に対する姿勢ちょっと話が逸れるが、これだけは聞いてもらいたい。
原子力に100%安全なんてものは現時点で有り得ない。しかし、現実問題として、原発はこの国の電力事情からすれば必要不可欠だ。
よって、
「原発は廃止することができない状態にある」。
これもまた、揺ぎ無い事実なのだ。
では、どうすればよいのか?
筆者の考える答えは、こうだ。
「危険性を正確に把握し、その上で、より安全性を高めるための努力を怠らない」危険か、安全か、なんて単なる色分けに意味はない。
喩えるならば自動車のようなものだ。
自動車は100%安全だ、なんて一体誰が言えるというのか。
しかし、現実にこれほど便利な乗り物はない。
よって、教習所で危険性について学び、国家が常に啓蒙し続け、そして、ドライバー自身が責任を持って、安全な運転に努める。
自動車のメーカーは、今以上の安全性を求めて研究をやまない。
そんな姿勢が、きっと、原子力関係者には求められるのだろう。
【終わる】
稚拙な文章ではないか、と思います。
改良点やご不満な点があれば申しつけください。
おつかれさまでした。
ドライアイ対策をしようね。
原子炉の項を書く準備をします。数日お待ちください。
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